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【第1部】 第3話 奪われた唇②

last update Last Updated: 2025-05-23 16:41:19

 私はヘンリーを見つめ、ぽつりとつぶやく。

「しばらく……この家にいる?」

「うん! 流華、ありがとう!」

 ヘンリーがおもいきり、私に抱きついてきた。

 お風呂上がりの彼の体温……祖父に抱きしめられて以来の人肌の感触。

 心臓が激しく脈を打ちはじめる。

 こんなに、人肌って気持ちいいものなの?

 ヘンリーの腕の中が居心地よくて、私は不覚にもずっとこの中にいたい、なんて思ってしまった。

 急に顔が熱くなっていく。

「お嬢……もう……俺は、無理です」

「え? ちょ、龍っ」

 振り向いて龍の顔を確認したかったが、ヘンリーの腕に邪魔され確認できない。

 次の瞬間、龍に吹っ飛ばされたヘンリーが目の前の壁にめり込んだ。

「ヘンリーっ! 龍! ちょっとは手加減しなさい!」

 私は怒りながら龍へ視線を向ける。

 龍は私から顔を背け、真顔で突っ立っていた。

 その態度は、何も悪い事などしていない、と言っているようだった。

 また私は、壁にめり込んでいるヘンリーを急いで救出する。

「……大丈夫っ? ごめんね、何度も」

 龍にやられる度に、ヘンリーの浴衣は少しずつはだけていた。

 はだけた浴衣から覗く白く綺麗な肌。

 それを目撃してしまった私は、顔を赤らめた。

 そんな私の様子に、ヘンリーはくすっと笑う。

「本当に、君は可愛いね。

 まだ何も知らないの? 僕が教えてあげたいな」

 私の顔はさらに赤くなっていたに違いない。

 それより、龍の殺気がとんでもない事態になっていることに気づいた私は、咄嗟にヘンリーを背に庇った。

「龍、駄目よ、まって!」

「そうだよ、龍さん。いくら流華が可愛いからって独り占めはよくない」

「なっ……」

 龍の顔が怒りに染まった。

 今にもヘンリーを殺しそうな顔をしている。

 まずい! 龍を鎮めなければ。

 そのとき、背中に庇ったヘンリーが後ろから私を抱きしめてきた。

「ちょ、ヘンリーっ」

 私がヘンリーの方へ振り向くと、目の前に彼の顔面が迫っていた。

 あっという間に、私の唇は奪われてしまった。

 時が止まる。

 なんだか、不思議な感覚に包まれる。

 ただ、嬉しいとか、気持ちいいとかそういう単純な感情ではない。

 特別な何か。遠い昔に忘れた大切な感情?

 ずっと忘れていた、大切な何か……。

 このままずっと時が止まればいいとさえ思ってしまう。

 唇が離れ、私たちはお互い見つめ合う。

 私がヘンリーを見つめると、彼も視線を外さず私のことをずっと見つめ続ける。

 はっと意識が戻り、龍の方へ視線を向ける。

 龍は腰を抜かしたように座り込み、虚空を見つめていた。

 どこかへ意識が飛んでいるようだ。

 なんだかよくわからないが、助かった。

 私のキスシーンなんて、龍には刺激が強すぎる。

 それにしても……。

「ヘンリー、こういうこと簡単にしちゃ駄目だよ。

 あなたは王子だからわからないかもしれないけど、キスは愛し合ってる人達がするものなの」

 私は照れくさくて、ヘンリーから視線を逸らした。

 王子だから、一般常識が通じないのだろうか。普通、初対面でいきなりキスする?

 別にそんなに嫌じゃなかったから、怒ることを忘れそうになる。

 って何で、嫌じゃないんだろう……。

 私はわけがわからなくて、自分の唇にそっと手をあてた。

「僕はもしかして……この世界に、君を探しにきたのかもしれない」

 ヘンリーは何の悪びれも無く、最上級の可愛らしい笑みを私に向けるのだった。

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Comments (1)
goodnovel comment avatar
憮然野郎
ヘンリー、流華に不意打ちのキス、大胆ですね(๑˃̵ᴗ˂̵) それにしても……、 龍の反応、すごく心配ですね ((((;゚Д゚)))))))
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